ジモティーで詐欺にあったので少額訴訟をした② -詐欺師の身元を特定する-

「ジモティー」詐欺シリーズの続編です。

弁護士に頼まず、自分で少額訴訟を実施しました。

*2019年に書いた記事のリライトになります。

訴状が受理されるまで

訴状の作成

先の記事にも書きましたが、裁判所のWebサイトに訴状のテンプレートや記載例があります。

僕は訴状を書いたことも見たこともありません。
大学も法学部ではないので、法律の知識も希薄です。

そのため自分で記載してみた訴状を簡易裁判所に持ち込んで内容をチェックしてもらいました。
簡裁民事書記官室がその業務の窓口になります。

「ネットでの売買のトラブルがあったので、少額訴訟を起こしたい」ことを伝えると、書記官の方が担当についてくれました。
「なぜ訴訟を起こそうと思ったのか」といった動機をヒアリングしながら、訴状と証拠の書類をチェックしてくれます。

僕が書記官の方から指摘を受けたのは『法律用語の作法(使い方)』と『相手先の特定』の2つ。

書類の書き方は他の事例を参考にしたおかげで、問題ありませんでした。

法律用語の作法

前者の法律用語の作法については概ねこんな感じの指摘を受けました。

・各文で被告と原告といった主語を略さずに正しく使う
・「ところが」「しかし」といった接続詞を用いる
・「通達」と「郵送」といった似たようなニュアンスの言葉を正しく使い分ける

最後の言葉の使い分けについては安易に法律用語っぽい単語を入れない方がいいと思いました。

例えば訴状に書いた『原告は内容証明で通達した』という部分には『原告は被告宛てに内容証明郵便を郵送した』と赤字をもらいました。

通達という言葉には「(上位機関から指示事項を)知らせること。通知。」という意味があります。
僕は被告の上位機関ではないので、この場合には「通達」という言葉は不適切になります。
知ったかぶってそれっぽい言葉を使ってもいいことないです。笑

相手先の特定

詐欺師は名前ではなくて屋号を使って連絡を取ってきていますが、法務局のWebサイトでは屋号も住所でも該当なしでした。

詐欺師から連絡のあった住所と屋号宛で送った内容証明郵便を詐欺師は受領しているため、その住所と屋号は実際に使われているものになります。

実際に使われているものであるため、刑事事件(詐欺事件)としては受理されず、民事となっています。

書記官の方にもそれらの経緯をお伝えしましたが、裁判をするための大前提として原告が被告(相手)を特定する必要があるとのこと。
僕の場合は個人か法人としての特定がそれにあたり、法人の場合は登記事項証明書の発行・添付が必要です。

今回のような屋号宛に訴訟を起こす場合は、相手が法人ではないという証明を原告(僕)がする必要があるとのこと。
具体的には法人としての該当がないことを証明するための書類の提出が必要とのことでした。

この2つを修正すれば訴状は受理してもらえるということでした。

訴状については、教えてもらった赤字を反映。
法人の登記がないことを証明するための資料は、詐欺師から連絡を受けた屋号と住所では法人の登記がないことを確認した法務局のWebサイトをまとめて出力しました。

訴状のチェックと必要経費

上記を修正して、簡裁民事書記官室へ2回目の訪問。
今回は訴状の受理を前提にチェックしてもらいました。

僕の作成した訴状はプロの目で見るとやはり多少のツッコミどころはあるものの、修正は1箇所だけで済みました。

その場での修正は二重線と訂正印でOKです。
ただし訴状に関する捺印はシャッチハタNGなので、注意が必要です。

書類のチェックが終わると収入印紙と書類の送付用の切手の納付を求められます。

少額訴訟では収入印紙は1,000円分、切手は約5,000円分が必要です。

僕は収入印紙も切手も用意していなかったので、上記の書類をもらって近くの郵便局に買いにいきました。
(どこの裁判所でも近くに郵便局があるはずです)

これらの経費は訴訟後に相手に請求することも可能なので、僕も請求するつもりです。

郵便局で買った収入印紙と切手を収めると、正式に訴状が受理されました。
まだ何も得ていませんが、裁判が始まる確証を得られたことにひとつの達成感があります。

原告の特定

裁判においては原告(僕)が被告(相手)を特定するという前提があります。

僕は本人の特定はできていませんが、訴状は受理されました。
被告名は「○○(屋号)こと以下不詳」となっています。

これは例外的な措置で、訴状を受理してもらうために“その屋号では法人登録がされていないという証明”を提出しました。

それでいけるかと思いきや、訴状の受理後に裁判所から電話がありました。
「振込先として連絡があった別の口座が個人名なので、可能性は低いかもしれないけど、“その名義での住民票の請求”をしてみましょう」とアドバイスをもらいました。

住民票を請求

弁護士でもない一般生活者が他人の住民票を請求できるのかと思いましたが、訴状が受理されると原告は被告の住民票を請求できるようになるということでした。

こういった発見があるのもの裁判に踏み切った動機のひとつなので、面倒ですが楽しくもあります。

ただ「請求の方法は相手の自治体に問い合わせてください」とのことでした。
被告の住む北九州市の某区役所に連絡し、担当となる区政事務センターに電話で問い合わせ。
電話口では丁寧に教えてもらい、下記のサイトと参考に資料を作成しました。

<必要書類>
1. 交付請求書
2. 本人確認書類(免許証のコピー)
3. 手数料(300円。定額小為替で納付)
4. 返信用封筒(返信用の切手も必要)

<必要に応じて>
5. 説明資料等

上記のサイトにテンプレートがあったので、①-④は住所や氏名などを記入するくらいでした。

ただ⑤の説明資料は自分で作成する必要があり、下記の内容を記載しました。

■住民票請求の理由
インターネットサイト「ジモティー」にて下記の方と売買の契約を結んだが、代金振り込み後商品が発送されないため、返金を求めたが連絡が付かず返金もされていない状況です。
そのため少額訴訟にて訴状を提出し、○月○日に○○簡易裁判所に受理されました。
しかし被告とは屋号でやり取りをしており、個人を特定できていないため、住民票を請求するように○○簡易裁判所から指示があり、今回の請求に至りました。

■詳細情報
<被告>
住所、屋号、口座名に記載された個人名

インターネット上では「○○」という屋号でやり取りをしており、代金も「○○」名義の口座に振り込みました。
被告の本名は不明なため訴状は『○○こと以下不明』で受理されました。
また振込先として「△△」名義の口座も連絡を受けています。(甲第4号証)
○○(屋号)=△△(個人名)である可能性があることから、○○簡易裁判所より「△△」の住民票を請求するように指示を受けました。

○○名義で××(住所)に送付した内容証明は受領されました。
(甲第7号証-1,2、甲第8号証)

当訴状は『少コ●号』で受理されています。
少額訴訟や受理に関する不明点は○○簡易裁判所の□□さんに連絡をいただけると助かります。
(□□さん本人よりそのように指示がありました)

○○簡易裁判所 □□様 xxx-xxx-xxxx

それ以外の不明点につきましては私宛てに連絡をいただけると助かります。

上記の補足資料以外にも訴状や証拠書類(甲○号証)の写しも添付しています。

他人名義の住民票の請求には訴状が受理されている必要がありますので、事件番号も必要です。
僕のは少額訴訟事件なので『少コ●号』という事件記録符号が付与されています。

これらを一式セットにして区政事務センターに送付すると一週間ほどで住民票が入手できるということでした。

該当者なし

一週間も経たずに書類が返送されてきましたが、残念な回答でした。

申請の住所、氏名で調査しましたが、該当者見当たりません。

この結果を簡易裁判所・民事立会係の方に伝えたところ、「取り急ぎこの回答書の原本を送ってください」とのことでした。

それが届き次第、裁判官も交えて被告の個人の特定のための次の対策を検討してくれるとのこと。

【番外編】直接対決?

相手の住んでいると思われる住所はわかっています。
私用で北九州に行く用事があったので、その際にその住所を訪れることにしました。

集合住宅で部屋番号までわかっているので、ポストに表札が出ていれば相手の名前が判明するかもしれないという思いからです。

残念ながら表札に名前は出ていませんでした。

インターホンで本人を呼び出してみようかとも思いましたが、相手がどんな人間かもわからないのでぐっと我慢。
その住宅の管理会社などを写真に撮ってその場を離れました。

調査嘱託(しょくたく)

次の一手として勧められたのは調査嘱託という制度を活用して、ゆうちょ銀行へ個人情報の開示を請求するというものでした。

僕が商品の代金を振り込んだゆうちょ銀行の口座名は屋号です。
それゆえに個人が特定できていないのですが、ゆうちょ銀行では口座に個人情報が紐づいています。

その情報を調査嘱託の制度を使って入手しようというものです。

調査嘱託とは、裁判所で行える手続きの一つです。

(民事訴訟法第186条)
裁判所は、必要な調査を官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は学校、商工会議所、取引所その他の団体に嘱託することができる。

詐欺被害のケースでは、偽名や架空の名前・名称を使用している加害者の名前や住所を知りたい時などに行います。但し、加害者に対して民事訴訟を提起していることが条件となります。

具体的な例を挙げると、詐欺の加害者がフリーダイヤルを使用していた場合、フリーダイヤル契約先の会社に対して、そのフリーダイヤルの「契約者名」「契約者住所」の情報を提供するように依頼することができるのです。

調査嘱託の流れ
1.裁判所に申し立てをした後、申立てを受けた裁判所が嘱託先に問い合わせます。
2.嘱託先が裁判所に回答します。裁判所から調査嘱託が来た場合は原則として回答義務があります。3.回答を受けた裁判所が申立者に伝えます。

詐欺被害対策.comより引用

嘱託先には原則として回答義務があるということで、とても有効な手段に思えます。
ただ個人情報保護の観点から銀行側が情報を出し渋ることもあるようなので、楽観視はできません。

また大前提として“加害者に対して民事訴訟を提起していることが条件”とありますので、いつでも誰でも使えるわけではありません。

その調査嘱託の申立書を裁判所事務官の方が記入例を添えて送ってくれました。

・事件番号
・原告
・被告

1. 証すべき事実
 (被告の氏名及び住所)
2. 嘱託先
 (ゆうちょ銀行 貯金事務センター)
3. 嘱託事項
 (振込先の名義人の氏名及び住所)

詐欺師の身元が判明

調査嘱託の結果は簡易裁判所宛てに届きます。

裁判所の権力を使って得た資料だからか、閲覧するにも申請書の記入が必要でした。
手続きを経て閲覧した資料がコチラ。

ついに僕を騙した本人の個人情報(住所、氏名)を入手することができました!

住所は本人から連絡があったものと同じだったので、氏名は詐欺を働いた本人のものといえると思います。

これでいよいよ裁判が始められます。

詐欺にあったのが2月、裁判所に初めて行ったのが3月で、訴状が受理されたのが4月。
相手の身元が判明したのが6月だったので、ここまで4ヶ月かかっています。