グランドセイコー SBGA011に生じた「1週間で10秒の遅れ」
愛用しているグランドセイコーのスプリングドライブ「SBGA011」で、精度の低下が気になるようになりました。
症状は1週間で5~10秒ほどの遅れ。
スプリングドライブの精度に惹かれて購入したこともあり、個人的にはかなり気になる数字でした。
そこでメーカーに点検を依頼。
結果的に初めてのオーバーホールを行うことになったのですが、メーカーで分解してもらったところ、遅れの原因まで判明しました。
原因はムーブメント内部にある「3番車カナの油乾き」
さらにオーバーホール後も精度を数ヶ月にわたって測ってみたところ、興味深い変化がありました。
この記事では実体験をもとに下記を書いています。
・なぜオーバーホールに出したのか
・メーカーが診断した「遅れ」の原因
・実際に行われた修理内容
・当時のオーバーホール費用
・修理後の実測精度
・気温とスプリングドライブの精度の関係
・その後の2回目のオーバーホール
※この記事は旧ブログで2015年に公開した記事を、現在の情報とその後の経過を加えて再構成しています。
SBGA011とスプリングドライブの魅力
SBGA011は、僕が30代前半に購入したグランドセイコーです。
プレミアムブランドに関わる仕事が増え、自分自身も長く愛着を持って使える腕時計が欲しくなった時期に購入しました。
現在のSBGA211につながるモデルで、ムーブメントにはキャリバー9R65のスプリングドライブを搭載しています。
スプリングドライブを簡単に説明すると、ゼンマイを動力源としながら、水晶振動子を使って精度を制御するセイコー独自の機構です。
僕がSBGA011を選んだ大きな理由も、このスプリングドライブでした。
ゼンマイを動力とする時計らしさがありながら、高い精度も楽しめる。
その仕組みそのものに惹かれました。
だからこそ、そのSBGA011が遅れるようになった時はかなり気になりました。
購入から3年、初めてのオーバーホール(コンプレートサービス)へ
購入から3年ほど経過した頃、SBGA011の遅れが気になるようになりました。
具体的には、1週間で5~10秒程度の遅れ。
ものすごく大きな誤差ではありません。
ただ、スプリングドライブの精度を期待して購入した僕にとっては「何かがおかしいのでは?」と感じる数字でした。
そこでセイコーのサービスセンターへ点検を依頼しました。
利用したのは、現在でいうグランドセイコーの「コンプリートサービス」にあたるメーカーのメンテナンスです。
コンプリートサービスは、内装修理・オーバーホールに加えて、ケースやメタルバンドのライトポリッシュも行うサービスです。
メーカー診断で判明した遅れの原因と修理内容
今回、一番興味深かったのがメーカーからの修理レポートでした。
僕が伝えた症状は、1週間で5~10秒の遅れ。
メーカーでも常温運転試験を行い、実際に僕が指摘した遅れを確認。
原因は「3番車カナの油乾き」だった
さらにムーブメントを分解して調査した結果、輪列部にある3番車カナに油乾きを確認。この影響によって歯車の噛み合わせに負荷が加わり、遅れが発生したと推定する。との回答でした。


油が乾く
↓
歯車に負荷がかかる
↓
精度に影響する
↓
時計が遅れる
ということです。
単純な精度調整の問題ではなく、機械部分の状態が実際に悪化していました。
スプリングドライブは高精度ですが、動力源はゼンマイであり、内部には歯車などの機械部品があります。
精度が高いことと、オーバーホールが不要であることは別の話なのだと実感しました。
ご指摘内容 : 1週間で5〜10秒の遅れ。
前回お預かり : 2012年09月完了 分解掃除。(2年前)
受付時確認結果 : 受入時の常温運転試験において、ご指摘の遅れ不具合を確認致しました。
原因調査結果 : 次に機械部の分解確認を行いました結果、輪列部にある3番車カナに油乾き確認しました。この影響によって、歯車の噛み合わせで、負荷が加わり、遅れが発生したと推定します。
処置 : お預かりの時計は、機械の分解掃除を行い、ケース及びバンドに研磨を施し、パッキンの交換を実施しまして、所定の検査で問題が無いことを確認できましたので、お納め致します。
実際に行われた作業と外装研磨(ライトポリッシュ)の仕上がり
メーカーで行われたのは下記の項目です。
・ムーブメントの分解掃除
・注油・調整
・ケースおよびバンドの研磨
・パッキン交換
・各種検査
特に大きな部品交換はありませんでした。
ケースには使用中につけてしまった少し目立つ擦り傷があったのですが、ライトポリッシュによってきれいになって戻ってきました。
精度だけでなく外観まできれいになったので、時計が戻ってきた時の満足感はかなり高かったです。
費用(46,440円)と期間、そしてまさかの「無償対応」になった理由
2015年当時のスプリングドライブのコンプリートサービス料金は46,440円(税込)
時計が1本買えてしまうくらいの金額なので、覚悟はしていました。
ところが今回は、最終的にメーカーの判断で無償対応となりました。
保証期間自体は終了していましたが、
・前回の点検からそれほど時間が経っていなかった
・メーカーでも僕が指摘した遅れを確認できた
という事情がありました。
無償になった正確な判断理由はメーカーから示されていないので推測になりますが、このあたりが考慮されたのではないかと思います。
費用面はもちろんですが、それ以上に印象に残ったのがメーカーの対応でした。
修理の状況を確認できるWebサービスや担当者とのやり取り、そして故障原因まで詳しく説明した修理レポート。
「この時計を長く使ってほしい」というメーカー側の姿勢を感じました。
精度が落ちた時は正直少し愛着が薄れかけていましたが、このアフターサービスによって再びSBGA011への愛着が強くなりました。
オーバーホール後の精度実測と「気温」の関係
今回、時計を預けてから手元に戻るまでの期間は約3週間でした。
精度の確認からムーブメントの分解、洗浄、注油、組み立て、外装のライトポリッシュまで行われていることを考えると、個人的にはかなりスムーズだった印象です。
現在の料金やメーカー推奨のオーバーホール頻度、2回目に実際にかかった期間については、別記事で最新情報と合わせて詳しくまとめています。
実測データ(日差−0.25秒〜−0.5秒)
時計が戻ってきたので、自宅の電波時計を基準に精度を測ってみました。
腕に付けた状態: -0.25秒/日(4日間で1秒のマイナス)
平置きの状態 : -0.5秒/日(2日間で1秒のマイナス)
十分に高精度なのですが、少し気になったことがありました。
メーカーには「できればプラス寄りの精度にしてほしい」と伝えていたからです。
そこで、スプリングドライブと温度の関係についてサービスセンターに確認しました。
サービスセンターに聞いた「スプリングドライブと温度変化」
一般的な機械式時計は、温度や磁気、姿勢、携帯時間、ゼンマイの巻き上げ量などによって精度が変化します。
機械式時計は高温時には遅れがち、低温時には進みがちになる傾向があると理解しています。
スプリングドライブの場合はどうなんだろう?
当時Webで確かな情報を見つけられなかったため、サービスセンターへ直接確認しました。
> ご質問の件でございますが、
スプリングドライブも少なからずとも温度変化の影響を受け
温度が上がってくれば歩度はプラスにシフトする傾向にあります。
スプリングドライブの精度平均月差±15秒(日差±1秒相当)は
気温5℃~35℃で腕につけた場合の精度です。
プラス寄りの精度をご希望でしたので精度平均月差+8秒で調整致しました。
つまり、オーバーホール直後の冬場に若干マイナス寄りだったとしても、気温が上がるにつれてプラス方向へ変化する可能性があるとのこと。
そこで、その後も実際の精度を継続して測ってみることにしました。
その後の4ヶ月間追跡(月差+1秒の衝撃)
実際の計測結果は面白いものでした。
・4月:月差+1秒
・5月:月差+5秒
・6月:月差+5秒
気温が上がるにつれて、サービスセンターから説明された通りプラス方向へ動いていきました。
特に4月の月差+1秒は驚異的です。
使用環境によって結果は変わるので、すべてのスプリングドライブが同じような数字になるわけではありません。
それでも、ゼンマイを動力源にした腕時計として考えると、あらためてスプリングドライブの精度の高さを実感しました。
仕組みと精度に惚れて購入した時計だったので、この結果は素直にうれしかったです。
その後、2回目のオーバーホールでも「油」が原因に
この1回目のオーバーホールから約4年後、SBGA011には再び遅れの症状が発生しました。
2回目はさらに症状がひどく、腕にはめていると突然2~3分遅れるというもの。
興味深いことに、2回目にメーカーが指摘した原因も機械内部の油の減少と汚れでした。
1回目は「3番車カナの油乾き」
2回目は「機械内部の油の減少と汚れ」
2度のオーバーホールを経験すると、スプリングドライブの高い精度を維持するうえでも、機械部分の定期的なメンテナンスは重要なのだと実感します。
2回目の記事では下記をまとめています。
・約4年後に再び不具合が出た理由
・メーカーの診断結果
・交換された部品
・実際に支払った金額(60,830円)
・1回目、2回目、現在の料金比較
・現在のメーカー推奨オーバーホール周期
まとめ:精度低下はメンテナンスを考えるきっかけになった
今回の1回目のオーバーホールをまとめると下記の結果でした。
・SBGA011が1週間で5~10秒遅れるようになった
・メーカーでも遅れを確認
・原因は3番車カナの「油乾き」
・分解掃除、注油、パッキン交換などを実施
・当時の通常料金は46,440円だったが、今回は無償対応
・オーバーホール期間は約3週間
・修理後は月差+1~5秒という高精度を記録
・約4年後の2回目も油の状態が遅れに影響していた
スプリングドライブ購入前後の僕は、その高い精度にかなり惹かれていました。
だからこそ遅れが気になったのですが、結果的には精度が落ちたことで、時計内部の状態を確認するきっかけになったともいえます。
長く使う時計だからこそ、単に「何年経ったからオーバーホールする」と決めるだけでなく、いつもと違う遅れや進みが出始めていないかという変化にも目を向けておくことが大切だと思います。
そして現在もSBGA011は愛用しています。
前回の2回目のオーバーホールから6年経過していますが、精度もバッチリです。
1回目、2回目とメンテナンスを重ねても同じ時計を使い続けていることを考えると、こうして手を入れながら長く付き合えること自体が、この時計の魅力なのかもしれません。






“グランドセイコー SBGA011の遅れをオーバーホール|原因は油切れ、修理後の精度も検証” への2件のフィードバック